バッキンガム公の騎行
マリアと「北の部族」の会話に出てくる「騎行」だが、これは百年戦争、特に14世紀に盛んに行われたイングランドの戦術「Chevauchée」のことを指している。機動力の高い騎兵などで敵地に深く侵入し、守りの弱い村などに対して放火や略奪、家屋の破壊を仕掛け、敵の士気や生産性を低下させることを目的にしている。単なる傭兵の略奪と同じにも見えるが、戦術的な意図があるので区別すべきだろう。14世紀には、1355年と56年のエドワード黒太子、1373年のジョン・オブ・ゴーントの大規模な騎行が何度か行われたが、フランス側の城壁の整備やイングランドの支配地拡大などの理由で、15世紀になるとほとんど行われなくなってくる。後のグロスター公トマスとなるバッキンガム伯によって行われた1380年のものが最後の大規模な「騎行」と言える。