パクス・デイ
最終話でジョセフの答えに対して大天使ミカエルが発する「パクス・デイ(Pax Dei)」という言葉。これは「神の平和」を意味しており、中世ヨーロッパに起こった平和運動を指している。
十字軍などの歴史を見るとキリスト教の戦闘的な側面が気になるかもしれないが、ローマ教会の中では、10世紀から11世紀頃にかけて、宗教的な権威を持って横暴な封建貴族に対して女性、子供、非武装な農民などへの危害、略奪を止めさせるという平和運動も展開されている。始まりは南フランス地方だったが、やがて司教などを中心にヨーロッパ各地で広がみせ、その理念は教会法などにも取り入れられていった。一定期間の戦闘の停止や非戦闘員への安全確保、約束に反した領主の破門など、ローマ教会が平和実現のための具体的かつ政治的な努力を行った運動であり、それまで不法な収奪などに苦しめられていた農民にとっては救いだっただろう。横暴や腐敗は少なからず存在していたが、ローマ教会がこうした一般人に寄り添う姿勢を見せていたことも忘れてはならない。しかし、各地で世俗の王権が強化していく中で、宗教の権威を基盤にした運動は少しずつ力を失っていく。
ジョセフが森で教えを受けたという隠者さまは、こうした「神の平和」の理念を受け継いだ人物だったのかもしれない。